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松山地方裁判所 昭和33年(行)10号 判決

原告 栗本幸子

被告 愛媛県教育委員会

主文

原告の請求はいずれもこれを棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は「被告が原告に対し昭和三十三年九月三十日付でなした退職処分は無効であることを確認する。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決及び、予備的に「被告が原告に対し昭和三十三年九月三十日付でなした退職処分は取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求原因として

一、原告は昭和三十三年四月一日被告から愛媛県公立学校教員として条件附で採用され、爾来、西条市立玉津小学校に勤務していたが、昭和三十三年九月三十日被告から免職する旨の処分を受けた。原告は地方公務員法第二十二条第一項の所謂条件附採用期間中のもので本件処分を受けるまで、勤務校において教育に専念し、その勤務成績も極めて良好であつた。従つて条件附期間の満了をもつて当然正式採用さるべき者であつたが、被告は、愛媛県における「条件附採用期間中の職員及び臨時的に任用された職員の分限に関する条例」(昭和二十八年三月十三日条例第四号、昭和三十一年八月十四日条例第六号改正)第二条に該当するとして原告を免職処分に付したのである。

二、しかしながら右処分は次に述べる理由により無効である。

(一)、前記条例第四条には「任命権者は前二条の規定に基き条件附採用職員又は臨時職員を降任し若しくは免職する場合には、その旨を記載した書面を当該職員に交付して行わなければならない。」と規定している。即ち「その旨」とは文言上明らかなように、前二条の如何なる事由に該当し、如何なる処分であるかを明らかにすべき旨を規定しているのである。しかるに原告に交付された本件免職処分の意思表示を記載した面書には、単に免職する旨の記載があつたに過ぎず、これは右条例第四条に違反しているので右処分は無効であるる。

(二)、労働基準法第二十条に違反し無効である。

すなわち、条件附採用期間中の職員は、労働基準法第二十一条第四号に所謂試の使用期間中の者に該当するものであるけれども、しかしその条件附採用の期間は六ケ月とされているものであるから、同条但書により同法第二十条の適用を受けるものであるところ、被告は本件処分をなすに際し、原告に対して予告期間も置かず、又予告手当の弁済提供もしていない。従つて右処分は、被解雇者に対する予告或は予告手当の支給を即時解雇の要件としている労働基準法第二十条に違反し、無効である。

被告は本件処分は労働基準法第二十条但書の労働者の責に帰すべき事由に基く解雇の場合に該当すると主張するけれども、本件処分は前記条例第二条による分限処分であるから、その処分の性質上、労働者の義務違反をその処分の対象としているものではなく従つて労働者にとつて即時解雇されても止むを得ないものとする事由の存在する余地がない。又原告にかゝる即時解雇も止むを得ないとするような事実はない。

(三)、地方公務員法第五十六条に違反し無効である。

被告が原告を免職処分に付したのは原告に前記条例第二条所定の免職事由があつてなされたものではなくその真意は、原告が昭和三十三年九月十五日、西条市武徳殿で開かれた西条市教員組合主催の、愛媛県立学校職員の勤務成績の評定に関する規則、市町村立学校職員の勤務成績の評定に関する規則、及び教育職員の勤務時間の割り振り等に関する規則の廃止を求める行政措置要求大会(以下統一行動と略称する)に年次有給休暇を請求して出席したこと、即ち正当な組合活動をしたことをその処分の理由とするものであつて、これは地方公務員法第五十六条に違反する無効な処分である。

被告は原告の右統一行動の参加が、地方公務員法第三十七条第一項前段の同盟罷業に該当すると主張するけれども、右参加は争議行為ではない。すなわち

(イ)、原告等は争議行為の目的をもつていなかつた。

原告等は当日職場を離れるについて、これを手段として被告に圧迫を加えるという意図はなかつた。原告等は前記勤務成績の評定に関する規則等の廃止を求めるため、地方公務員法第四十六条に基く行政措置要求の手続を行うことを目的として地方公務員法上認められている権利を正当に行使したに過ぎない。

(ロ)、原告は勤務を放棄したことなくかつ年次有給休暇を得ていた。

原告等西条市立学校の教員には当時具体的に拘束を受ける勤務時間の定めはなかつたのであるが原告は当日その担当する授業を終了した後大会に出席したのであるから原告は勤務を放棄したものではない。また原告は当日所属の校長に対し年次有給休暇の請求をしてから出席したのである、もつともその承認は得られなかつたが、そもそも校長の承認は年次有給休暇取得の要件ではない。即ち労働基準法第三十九条第三項は、使用者に対し、年次有給休暇請求に対しては、その理由、利用方法の如何に拘らず請求の時季に休暇を与えることを義務づけている。ただ請求の時季に休暇を与えることが事業の正常な運営を阻害する場合に限つて、他の時季に与えることが許されているに過ぎないものなのである。ところで校長が原告の年次有給休暇の請求を拒否したのは事業の正常な運営を阻害するということを理由としたものではなく、又事業の正常な運営を阻害するような事実は全くなかつたものであるから、原告は適法に年次有給休暇を取得していたものと云わなければならない。このように有効に年次有給休暇を取得した上でこれを利用し、統一行動に参加したものであるから原告には何等非難される理由がない。

(ハ)、業務の正常な運営を阻害していない。

当日午後、原告は担当クラスの授業もなく、又校内で処理すべき雑務、職員会議その他の行事も全くなく、原告が午後職場を離れることにより学校運営が阻害されるという虞れは全くなかつた。

従つて原告の行為は何ら地方公務員法第三十七条に違反するものではなく、かえつて、原告の統一行動参加を理由とする本件免職処分は地方公務員法第五十六条に違反するものである。

(四)、処分事由の不存在により無効である。

被告は原告の昭和三十三年四月一日から同年八月末日までの勤務評定の観察期間内の勤務成績と、統一行動参加の事実をもつて前記条例第二条の勤務成績が不良であり、その職に引続き任用して置くことが適当でないと云う事由に該当すると主張する。

しかし被告の主張は理由がない。すなわち、

(イ)、勤務成績は優秀であつた。

昭和三十三年八月末日までの勤務評定の結果は優秀であつた。ところで教諭、助教諭等に対する勤務評定の対象とされるものは、(1)勤務の状況、(2)特性能力であつて前者の評定要素は(イ)、学級及び教科経営、(ロ)学習指導、(ハ)生活指導、(ニ)評価、(ホ)校務の処理であり、後者の評定要素は(イ)教育愛、(ロ)指導力、(ハ)誠実(ニ)責任感、(ホ)公正、(ヘ)寛容、協力、(ト)品位であつて、その対象は教職員が現に就いている職における勤務状態の勤務成績に限られるものである。従つて原告が有給休暇届を出して統一行動に参加したことは、原告が現に就いている職における勤務成績や勤務状態とは何らの関連もない。有給休暇を請求して統一行動に参加したことは原告の私的な、個人としての生活であつてこれを勤務成績と結びつけることはできないものであり、統一行動参加の事実をもつて勤務成績を不良と認定し、これに基いてなした被告の本件処分は全く理由がない。

(ロ)、原告は適格性を欠いていない。

条例第二条にいわゆる「その他の事実に基いてその職に引続き任用して置くことが適当でないと認める場合」とは、地方公務員法第二十八条第一項第三号にいう「前二号に規定する場合の外、その職に必要な適格性を欠く場合」と同一である。そして「その職に必要な適格性」とは当該職員の占めている職について、その職務遂行上必要とされる知識、熟練、技能、技術、研究、規律、機密保持、統卒、判断、企画、交渉、協調、正確、機敏、体力、その他能力、性格、態度等に関するいつさいの要素についての人の属性を含むのである。したがつて「その職に引続き任用して置くことが適当でない場合」とは、前記のような当該人のもろもろの要素属性からいつて、教職員たるに適さない色彩ないし「しみ」が附着していて、それが簡単には矯正できない場合を云うものと解さなければならない。

ところで原告はこれまでこのような不適格性の徴表と認められる行為は一回もなく、又原告にそのような適格性を欠く点は一つもなかつた。

統一行動の参加は、その目的、方法ともに適法なものであつてこの事実をもつて適格性判断の資料となし得ないものであることは前述のとおりであるが、仮りに統一行動参加が、地方公務員法第三十七条に違反する行為であつたとしても、原告の教員としての適格性が問題とされるような簡単には矯正できないような「しみ」或は徴表ではない。すなわち、昭和三十三年九月十五日の如き統一行動が屡々行われる訳でもないし、原告一人がこれを行つたものでもない。これまで原告は教員としてその職を忠実に誠意をもつて熱心に遂行して来ていたものであるから、この事実のみをもつて、これまでの原告の行動、性格、素質、能力等を考えれば、不適格性の徴表と云い得ないことは明らかである。

したがつて原告の統一行動参加の事実をもつて「引続きその職に任用して置くことが適当でない場合」に該当するとしてなした被告の本件処分は全く理由がなく無効と云うべきである。

(五)、解雇権の濫用で無効である。

一般に正当な理由なく解雇する場合、あるいは一応正当な理由があつてもその事由が労働者を当該企業外に排除しなければならない程のものでない場合には当該解雇は無効である。そしてこのことは正式採用者のみならず試の使用期間中のものについても云い得ることであり、又懲戒解雇であると否とに拘らず解雇一般について云い得ることである。

原告は条件附採用期間中の者であつたが、「条件附採用期間中の職員及び臨時的に任用された職員の分限に関する条例」によつて地方公務員法第二十八条と同様の分限保障があり、又地方公務員法第二十九条の適用を受ける点、正式採用者と殆んど同一の身分保障が与えられていたものである。たゞ正式採用者と条件附採用期間中の者の差異は、(イ)心身に故障がある場合に条件附採用期間中の者には休職処分がないこと、(ロ)心身の故障を理由に退職処分に付される場合にも、正式採用者の場合には医師二名を指定してあらかじめ診断を行わせなければならないが(職員の分限に関する手続及び効果に関する条例第二条第一項)後者にはかゝる手続が要求されないこと、(ハ)条件附採用期間中の職員は不利益処分の審査請求権を有しないとの点があるに過ぎない。

ところで地方公務員法第二十八条による免職と、同法第二十九条による免職とはその目的性質において異る。後者は公務員関係における秩序維持のために職員の責任を問うことを本来の趣旨とし当該労働者を免職以下の懲戒処分に附して反省の機会を与えることが無意味であつて、企業維持の必要上公務員関係を排除しようとするものであるのに対し、前者は制裁の意味をもたず、所定の事由が存する場合に当該労働者を除去し、もつて公務の能率を維持し、もしくはその適正な運営を確保することを目的として職員の公務員関係を消滅しようとするものである。

たゞ地方公務員法第二十九条第一項各号のいずれかに該当する事由があつた場合に、その事由が同法第二十八条第一項各号に該当すると評価される場合もあるであろうが、その非違が、当該職員に公務員たるに適さない「しみ」が附着していて、それが簡単に矯正できない持続性をもつて居り、そのような不適格性の徴表と認められる場合に初めて免職処分をなし得るものと云わなければならない。懲戒免職処分に該当するような事由があつた場合は、概ねその瑕疵が簡単に矯正できない持続性をもつものと評価される場合が多いであろう。そしてこの様な場合には懲戒免職処分に付するか、分限免職処分に付するかは全く任免権者の自由であると云い得るであろうが、停職以下の懲戒処分相当の非違しか存在しないのに拘らず、その非違故に成績不良と評価することも可能であるからと云つて、直ちに分限免職処分に付することは解雇権の濫用である。

本件についてみるに、その処分の理由とされたのは、統一行動参加の事実であり、これが分限処分事由に該当すると評価されたものである。しかし

(イ)、正式採用者多数が原告と同一の行動をとつたが、これらの者は組合役員を除いては戒告或は訓告の処分を受けたに止まつていること。

(ロ)、西条市内において条件附採用期間中の職員土岐恵朗も統一行動に参加したが、同人は自ら退職願を出したことから改悛の情が認められると云うことで昭和三十三年十二月に再採用されていること。

(ハ)、原告に対しても、原告が改悛の情を示し、訴訟を取下げれば再採用する心算でいること。

(ニ)、これまで条件附採用期間中の職員が正式採用されなかつた例はないこと。

(ホ)、青森、福島両県においても同様の事例があつたが、いずれも退職処分の翌日改めて条件附採用をしていること。

等に照らすと、被告自身、原告の統一行動参加の事実を単に懲戒処分事由としてのみ評価して居り、この事実をもつて原告が教員としての適格を欠き、その瑕疵が容易に矯正できない持続性をもつものとして評価していないことは明らかであり、訓告ないしは戒告によつて反省を求めれば充分な程度の非違としか評価していないものである。

原告の訴訟提起は法治国の国民として当然の権利行使であるところ、これをもつて原告には改悛の情がないとか、不遜であると考える被告側の態度は極めて非近代的、非法治国的なものと云なければならない。原告に対して加えられた数々の訴訟取下の勧誘は一応の従順な態度があれば再採用しても構わないとの趣旨のもとで行われたものであり、原告の統一行動参加の事実も、その程度の瑕疵として評価していたに過ぎなかつたのである。

被告としては、原告に対し訓告、戒告、減給、停職、懲戒免職、分限免職、条件附採用期間の延長など、いろいろの方法によりその非違を咎めることが可能であつたのである。そしてそのいずれによるべきかは、その非違の程度如何ということになるが、前述のような諸般の事情から考えると、原告の行動は少くとも戒告処分で足りるものとしか被告自身においても考えていなかつたものと云わなければならない。しかるに原告が条件附採用期間中の職員であつたということだけで、他の正式採用職員に対しては訓告ないしは戒告処分しか科していない事実をとり上げて、分限規定による免職処分に付すると云うことは何ら合理的な根拠がなく、解雇権の濫用であつて無効と云わなければならない。

(六)、地方公務員法第二十七条に違反し無効である。

被告は本件処分によつて条件附採用期間中の職員の組合活動を抑圧し組合全体の力を弱めようとしたものである。すなわち

(イ)、条件附採用者は身分が不安定なのだから正式採用者と同様な組合活動をすることは危険である旨校長を通じて強調していたこと。

(ロ)、玉津小学校長が、本件処分の前後数回に亘つて原告に対し組合脱退を勧めたこと。

(ハ)、他の条件附採用者に対するみせしめとして、原告に対し強硬手段をもつて臨んだものであつて、教育の適正な運営を維持するという分限処分本来の観点に基く純粋なものではないこと。

これらの事実からすれば、被告の真意は懲戒にあつたものでありこのことは被告側証人の証言に、原告の統一行動参加に対する非難が強く表明されていること、特に改悛の情の有無に拘泥している点から明らかである。しかしこれだけの事実をもつて懲戒免職に付することは、地方公務員法第二十七条第三項、第二十九条の規定及び正式採用者に対しては訓告或は戒告処分を科している事実が妨げとなるため、分限免職処分によつてその目的を果そうとしたのであつて、これは地方公務員法第二十七条第三項の身分保障の規定を無視したもので無効である。

よつて原告は、被告が原告に対してなした本件免職処分の無効確認を求め、仮りに無効でないとしても、その取消を求めると述べた。

(立証省略)

被告訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として、

原告主張の請求原因一の事実中、原告の勤務成績が極めて良好であつたとの点、本件処分が無効であるとの点を除き、その余の事実はすべて認める。

二の(一)の事実中原告主張のような手続規定のあることは認めるが右規定の「その旨の記載」とは「降任」或は「免職」に付する旨の記載を要求しているに止まり、原告主張のような前二条のいずれの事由に該当するか迄も明らかにすべきことを要求しているものではない。

二の(二)の事実中、被告が原告主張のとおり、労働基準法第二十条の手続を経ていないことは争わないが、本件免職処分は、原告が地方公務員法第三十七条によつて禁止されている争議行為に参加したことと勤務成績とを綜合して、勤務成績が不良であつて、引続きその職に任用して置くことが適当でないと認める条例第二条の事由に該当するとしてなしたもので、労働基準法第二十条但書の「労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合」に当り、右手続をなす必要はない。仮りに「労働者の責に帰すべき事由」に該当しないとしても、労働基準法第二十条は、解雇の要件となるものではないから、右手続をとらなかつたとしても、本件免職処分の意思表示の効力に影響を及ぼすものではない。

被告は、原告の昭和三十三年四月一日から同年八月末日までの勤務評定の観察期間中の勤務成績と、原告が愛媛県教員組合の指令による昭和三十三年九月十五日の正午授業打切りの統一行動に際し、西条市立玉津小学校長、教頭及び同僚の再三の注意、制止にも拘らず、これに参加したこと、すなわち愛媛県教員組合所属の組合員が計画的、集団的に職場を離脱して労務の提供を拒否した地方公務員法第三十七条第一項前段の同盟罷業に該当する行為(仮りに争議行為でないとしても非難すべき行為)に参加したこと等を綜合して、愛媛県における「条件附採用期間中の職員及び臨時的に任用された職員の分限に関する条例」第二条の「勤務成績が不良であり、その他の事実に基いてその職に引続き任用して置くことが適当でないと認める場合」に該当すると認定し、原告を免職処分に付したものであるから適法であり、原告の本訴請求は失当である。と述べた。

(立証省略)

理由

原告は昭和三十三年四月一日被告から愛媛県公立学校職員として条件附で採用され、爾来西条市立玉津小学校に勤務していたところ、右条件附採用期間の最終日にあたる同年九月三十日、被告が原告に対して、「条件附採用期間中の職員及び臨時的に任用された職員の分限に関する条例」に基いて、原告を免職する旨の意思表示をなし、その旨の記載ある書面が同日原告に到達したことは、いずれも当事者間に争いがない。

(一)、原告は、被告のなした本件処分は、その書面に単に「免職する」旨の記載があつたに過ぎないものであるから、前記意思表示は、その方式において前記条例第四条に違反し無効である旨主張し、被告はこれを争うので先づこの点について判断する。

右条例第四条は「任命権者は、前二条の規定に基き、条件附採用職員又は臨時職員を降任し、若しくは免職する場合は、その旨を記載した書面を当該職員に交付して行わなければならない。」としている。そして右規定の「その旨を記載した書面」とはその文言上「前二条の規定」の如何なる事由に該当するかを明らかにすべきことを要求しているのではなく、「免職」若しくは「降任」する旨、すなわち如何なる処分に付するものであるかを明らかにすべきことを要求しているに止まるものと解するのが相当であつて、被告のなした本件処分は、その方式において何ら欠けるところはなく適法なものと云わなければならない。従つて原告のこの点の主張は理由がなく採用し難い。

(二)、次に原告は本件免職処分は労働基準法第二十条(第二十一条但書)に違反する無効の処分であると主張するのでこの点について検討する。

1、先づ公務員の一般職員の条件附採用の性質について考えてみるに、条件附採用の制度は公務員として採用せらるべき者はその官職における職務を執行する能力を有する適格者であることを要するは論を俟たないところであるが、競争試験又は詮衡を経て公務員として新に採用せられる者が必ずしも職務執行能力を有する者とは保障し難いのでその能力の有無を判定して職員として採用するか否かを決めようとする職員の選択手続の最終段階の選択方法として採られている制度であつて、職員の採用は条件附のものとし、その職において六ケ月を勤務しその間その職務を良好な成績で遂行したときに適格性を有するものとして正式採用者となり成績不良その他適格性のないものはその職より排除せられるものとするのである。

2、条件附採用期間中の職員は前記の通り正式採用の選択過程にある者で未だ職員としての適格性は認められておらずその中には適格性を有する者があると共に適格性を欠く者もあり得ることは当然予想せらるることである。しかして公務員として、職員としてその職務を遂行することができない不適格者に対してなおその官職における職務、公務を担当させ遂行させることは国家、又は地方団体の利益に反することは明らかで不適格者たることが判明すれば速かにその官職より排除しなければならないことはこれまた当然のことである。人事院規則一一-四(職員の身分保障)第九条(昭和二十八年三月十三日愛媛県条例第四号第二条も同趣旨)に同条所定の事由があるときには何時でも免職することができる旨規定しているのは主として右趣旨を規定したものと解せられる。而して右条件附期間は原則として六ケ月であり、右期間の更新は許されずわずかに職員が条件附期間の開始後実際に勤務した日数が九十日に達しない場合に限り期間を一定期間延長せられることが唯一の例外であることは人事院規則八-一二第二十八条、昭和二十七年十二月十五日愛媛県人事委員会規則六-〇第二条により明らかである。

3、条件附採用職員に対しては正式採用職員と異り身分の保障なく、従つて不利益処分を受けても審査の請求をする権利なく、不当な処分であつてもその是正を求める途も与えられていない。それは条件附採用者は前記の通りなお選択過程にあるのであるから任命権者をして適格者であるか否かを適正に判定させるためには任命権者に広範囲に自由裁量権を認める必要があるためである。

4、ところで労働基準法第二十条の解雇の予告の規定は労働者が不意打的に解雇せられるとすると民法第六百二十七条所定の二週間をもつてしては他の就職先をさがす暇もなく失業により生計上困難を来すのでこれを緩和する目的で設けられたもので、解雇の予告とはもともと解雇の効力の発生する日時を予告するものであるから同条が適用せられるのは効力発生日を少くとも三十日前に予知し得る場合でなければならない。ところが公務職員の条件附採用の性質は前記の通りであり、任命権者は職員にして不適格者と認められるものあるときは何時でも免職することができ、かつ直ちに免職するものであるから、条件附採用の制度は本質上労働基準法第二十条と相容れず、適用せらるべき場合ではない。

5、けだし仮に条件附採用職員の免職に右第二十条の適用ありとすると、任命権者は身分保障のない職員を職務執行能力なき不適格者として免職すべき旨通知してからなお三十日間(不適格者か否かの判断措置は人事院規則八-一二第二十六条第二項及び愛媛県の前記条例の趣旨により任命権者が条件附任用期間満了前になすを要する。その判断は満了直前の五ケ月目中になされる場合が多いわけである。勤務評定書が提出されるのもこの時期である。かかる場合予告を要するとすれば期間満了後のその職員の身分はどうなるのか。かかる場合が前記期間延長事由に当らないことは明らかである)その職務を担当させ、遂行させねばならず、不適格者をして職務を遂行させることは国家、地方団体の利益を害する虞あること明らかであり、また、一方条件附採用職員の側においてもその期間中は身分の保障がないのであるから、前記所定の事由に該当すれば免職せられることがあり得ることを当然予想しておくべき筋合のものであり予告ないし予告手当の支給をする必要性が必ずしも大であるということができない。従つて予告ないし予告手当の支給を要すると解する場合とこれを要しないものと解する場合の公益私益にわたる利害得失を比較較量すると、要するものとする場合の弊害が著しく大であることが明らかであるので予告の規定は適用がないものと解するを相当とする。

6、なるほど、地方公務員法第五十八条には条件附採用職員の免職につき労働基準法第二十条を適用しない旨の明文の規定はない。しかしながら地方公務員の条件附採用の制度は国家公務員に於ける場合と略同様であるが、国家公務員については昭和二十三年法律第二百二十二号(第一次改正法)附則第三条により一般職に属する国家公務員については労働基準法は国家公務員法の精神にてい触せず且つ同法に基く法律又は人事院規則で定められた事項に矛盾しない範囲内で準用せられるものであるところ、労働基準法第二十条は国家公務員法及び人事院規則により定められている条件附採用制度における免職の規定と矛盾するものであることは前記の通りであるから準用なきものと解するを相当とし、地方公務員法における条件附採用者の免職についてもこれと同様に類推して予告の規定は適用がないものと解すべきである。

以上の理由により条件附採用期間中の公務員に対する退職処分については労働基準法第二十条(第二十一条但書)の適用は認められないから原告の右主張はそれ自体失当であり、採用の限りでない。

(三)、そこで被告は原告には前記分限に関する条例第二条所定の免職事由があつたので本件免職処分をしたと主張するに対し原告は原告が組合活動をなしたため被告はこれを捉え組合運動を弾圧する不法な目的で免職事由がないのにも拘らず免職事由ありとして本件免職処分をしたものであるから無効であると主張するのでこの点について検討を加える。

(1)、勤務評定の観察期間中の勤務成績について、

成立に争いのない乙第一号証に証人榊原茂利雄、同薦田キミ子、同一色ノブ、の各供述(何れも後記認定に反する部分を除く)を綜合すると、原告は昭和三十三年四月一日より西条市立玉津小学校で三年竹組を担当し、同年八月末日まで、欠勤、遅刻、早退等はなく、誠実に元気に職務を遂行し、生徒、P・T・Aからは好感を寄せられていたが、しかしその他の面、学習指導、校務の処理、責任感、公正、寛容、協力、品位については普通であり、学級経営及び教科指導、生活指導、教育愛、指導力の面においてはむしろ通常より稍劣つているような状態であつて、職務の水準に照らしての絶対評価は普通であつたが、西条市立玉津小学校における同僚間で占める位置すなわち相対評価は普通よりも稍劣る状態であつたことが認められる。

証人薦田キミ子、同一色ノブの供述中右認定に反する部分はたやすく措信し難く、他に右認定を覆すに足る証拠はない。

原告は、その勤務成績は極めて優秀若しくは良好であつたものであり、乙第一号証の勤務評定報告書は本件処分後何者かによつて特に書き変えられたものであると主張するけれども、これを認めるに足る証拠はない。証人森行雄(二回)、同松本忠之の各供述はいずれも原告の右主張に副うものであるけれども前示各証拠に照らし、たやすく措信することができない。

(2)、昭和三十三年九月十五日の統一行動参加について

原告が、昭和三十三年九月十五日、西条市武徳殿で開かれた西条市教員組合主催の、愛媛県立学校職員の勤務成績の評定に関する規則、市町村立学校職員の勤務成績の評定に関する規則及び教育職員の勤務時間の割り振り等に関する規則の廃止を求める行政措置要求大会(通称統一行動)に参加し出席したことは原告自ら認めるところであるが、その経過について考察するに、証人榊原茂利雄、同喜多川力、同高橋楚夫、同赤星明、同大西忠、同森行雄(第一回)の各供述並びに原告本人尋問の結果と弁論の全趣旨を綜合すると、これまで日本教員組合においては全国的な組織を通じ、或は各地区において教員に対する勤務評定実施に対して強力な反対斗争を続けていたが、昭和三十三年八月頃には、同年九月十五日に全国的に勤務評定実施に対する反対統一行動を行うべく計画していた。愛媛県教員組合においても昭和三十三年九月七日頃、勤務評定実施に対する反対斗争の一環として同月十五日に、正午授業打切り、一斉休暇戦術をとり、県下の組織をあげて勤務評定実施規則廃止等の行政措置要求大会を開くことを決め、各郡市教員組合に対して、これが参加を指令した。西条市教員組合においては同月十三日西条市南中学校において臨時大会を開催し県教員組合の指令に従つて、九月十五日に管内中小学校の正午授業打切り、一斉休暇戦術をとつた上、西条市武徳殿で行政措置要求大会を開催することを決議した。原告は他の組合員と共に右臨時大会に出席していた。原告の勤務する西条市立玉津小学校においては翌十四日、校内において職場大会が開かれ、右要求大会参加が討議され各自の自由意思に従つて参加することとなり原告は同月十五日午後一時五十分頃その職場を離れ西条市武徳殿において開催された西条市教員組合主催の前示行政措置要求大会に出席したことを認めることができ右認定に反する証拠はない。

よつて原告の右大会参加の行為が同盟罷業に参加したものと認められるか、または正当な組合活動といい得るか争があるのでこの点について検討するに、

イ、前記西条市における右大会は原告の所属する愛媛県教員組合が右十五日を期して組織的、統一的、集団的に正午で一斉に授業を打切り、勤務評定実施規則廃止等の行政措置を要求する目的で同組合の統一行動の一環として開催されたものでその指令に基き原告その他県下三千名以上に及ぶ多数の組合員はその勤務時間中その職場を離脱し、勤務を放棄して参加すべきことを協議した上、これに参加しその職場離脱により勤務を放棄したため、県下各学校において正常な授業をなしえず、合併授業、自習等の措置がとられたことはこれまた前掲の各証拠により明らかであるから、右大会の開催参加による組織的集団的職場離脱は結局使用者の意に反する労務提供拒否行為であつて同盟罷業に該当する争議行為をなしたものと認めざるを得ない。

ロ、もつともこの点につき原告は原告等西条市立学校の教員には当時具体的に拘束せるべき勤務時間の定めがなかつたところ原告は当日はその担当する授業を終了した後大会に出席したのであるから勤務を放棄したものということはできず従つて原告にとつては争議行為に該らない旨主張するが原告等教育職員の勤務時間は「教育職員の勤務時間の割り振り等に関する規則」(昭和三十三年八月十九日愛媛県教育委員会規則第十二号)(特に附則2)により定められており、原告の退出した前記午後一時五十分は勤務時間中であつて原告に勤務の放棄があつたことは明らかであるから原告の右主張は採用しない。

ハ、また原告は当日年次有給休暇を得て職場を離れたものであるから勤務を放棄したことにはならないと主張する。しかして原告が当日年次有給休暇届(成立につき争いのない甲第四号証)を提出したが校長の承認を得られず却下せられたことは前掲証拠により明らかで、また年次有給休暇は職員の請求する時期に与えられるべきであり、任命権者は公務の都合により支障がある場合(昭和二十七年八月四日愛媛県条例第三十一条第六条)即ち事業の正常な運営を妨げる場合(労働基準法第三十九条)に限りこれを変更することができるに過ぎないものであることは論を俟たない。しかして前記原告の休暇届に対する校長の却下処分は任命権者から委任を受けた校長の変更処分と解するを相当とするので本件の場合に変更権行使の事由があるか否について考えてみるに、事業の正常な運営を妨げる場合又は公務の都合により支障がある場合とは単に休暇を与えることによりその職員の担当する事務に支障がある場合を含むことはもちろん、なおその職員の属する部局ないし広く一般職員に悪影響を与えることにより公務の正常な運営を阻害する場合をも包含するものと解するを相当とするところ、原告の右休暇は前記の通り争議行為である大会出席を目的とするものであり、これを承認すれば他の職員にも悪影響を与え、学校の正常な経営、教育事務に支障を来すこと論を俟たないところであるから校長には変更権があり、従つて前記校長の却下処分は正当で、原告は休暇を得たものということができず、原告の右主張は採用できない。

以上のような次第であるから原告の前記大会出席による職場離脱の行為は地方公務員法第三十七条にいう同盟罷業をなしたものに該当するものといわなければならない。

(3)、原告の経歴及び性格について

証人榊原茂利雄、喜多川力、高橋楚夫、栗本政子及び原告本人の各供述を綜合すると、原告は昭和三十三年三月愛媛大学初等教育科二年制課程を卒業し同年四月教員として採用せられたもので、学歴、職歴ともに乏しきに拘らず自信強く、大胆わがままにしてかつ信念的で前記統一行動参加に際しても校長及び教頭等から大会出席の統一行動参加のための勤務放棄は教員には許されない争議行為であり、原告は特に身分の保障のない条件附職員であるから、これに参加すれば免職処分を受けるやも測られない旨再三に亘り警告を受けたにも拘らずこれに一顧すら与えず無視し、統一行動は正当な組合活動であるとの信念をまげず参加したものでその後も自己の行為につき何等反省するところなく、正当と信じていることを認めることができる。即ち原告はその職務の性質上最も重視すべき違法性についての判断力及び自己の行為に対する反省力に欠くるところあるとともに一般に違法と認められる行為でも自己が適法と信ずれば先輩その他の注意にも耳を藉さず行動に出る独善的な偏向せる危険な性格の持主であり、しかも右性格は一朝一夕には矯正できないものであるといわなければならない。

以上認定の(1)(2)(3)の事実を綜合すると条件附採用期間満了の昭和三十三年九月三十日現在において原告は勤務成績が不良その他の理由で、教員として引続いて任用しておくことが適当でない者であるということができるので、被告が前記条例第二条に基き原告に対し免職処分に付したことは何等違法ではなく、その理由があるものといわなければならない。

(四)、原告は被告が正式採用職員に対しては原告と同様統一行動に参加したものであつても訓告或は戒告処分に付したに過ぎないのに原告に対しては単に条件附採用期間中の職員であるという故をもつて分限免職処分に付したのは解雇権の濫用であると主張する。

なるほど統一行動に参加した理由によつては正式採用職員に対してはその統一行動の責任者と目さるべき組合役員が停職処分を受けただけで他の一般職員はすべて訓告又は戒告処分に付されたに過ぎないことは証人森行雄(第一回)、大西忠の各供述によつてこれを認めることができ、また前記条例第二条の条件附採用職員の分限免職に関する規定は正式採用職員の分限免職に関する地方公務員法第二十八条と略同趣旨の文言をもつて規定せられている。しかしながら条件附採用の制度は前記の通り職務遂行の能力をもち適格性のある者のみを正式採用し、適格性のないもの等所定事由に該当するものはこれを採用から排除することを目的とするもので条件附採用期間中のものはいわば正式採否の試験期間中のものであるから正式採用職員と異り、その身分の保障はなく分限上その取扱いの相異るべきは地方公務員法等の諸規定に照らし当然である。従つて条件附採用職員の分限免職について正式採用職員の分限免職と同趣旨の文言をもつて規定せられているからといつてこの一事によつて直ちに条件附採用期間中の職員についても正式採用の職員と同様の身分保障規定が設けられたとして同趣旨の事項はこれを同一に解し、同程度の事項は同様に取扱われなければならないものであるということはできない。同一程度の事項にして任命権者において正式採用職員にとつては未だ分限免職の事由に該当しない取扱いがなされる場合なるに拘らず条件附採用職員にとつては分限免職の事由とせられる取扱いがせられても右は任命権者の裁量権の範囲内にあり、制度上何等これを異とするには足らない。

また前記統一行動に参加した正式採用職員に対してなされた戒告等の懲戒処分は統一行動に参加し争議行為をした違法行為を捉え懲戒に値する非違があつたものとして処分されたものであるに対し、原告に対する免職処分は原告が統一行動に参加した違法行為が重要な原因となつているとはいえ、単にこれのみを捉えて懲戒の趣旨にてなされたものではなく、条件附採用期間中の勤務成績等に基き適格性がないものとしてなされたもので両者はその処分の目的、性質、処分の対象となつた行為及び事項の範囲を異にするものであるから、これを同日に論ずることはできない。

従つて原告の退職処分の重要な原因となつた統一行動参加の行為は正式採用者にとつては分限免職事由に該当せず、戒告処分に相当する程度のものに過ぎないものであるにしても本件免職処分は解雇権の濫用であるということはできず、原告の右主張は採用しない。

以上認定のとおり、被告が原告に対してなした本件免職処分は、原告に免職の具体的事由たる条例第二条該当の具体的事実が存在し手続面においても、実体面においても適法、有効になされたものと認められ、他に無効或は取消原因も認められない以上、原告の本訴請求(主位的請求及び予備的請求)はすべて失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 矢野伊吉 矢島好信 石田恒良)

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